<政宗の婚姻がいよいよ現実のものになってきた>
藤次郎政宗に問われて、父輝宗は苦り切った表情で、そなたの縁談で三春から使者が参っているのだが、「この者なかなかの一徹者で基信も手を焼いているようじゃ」と答える。
それを聞いた虎哉禅師が、「ほほー、それはなかなかおもしろい。殿 !! ここは若の縁談にござれば、藤次郎殿ご自身に仕切らせてみてはいかがなものでござりましょうか !? 」
子供から大人への移り変わる大切な時期、自立心を養うにはもってこいの教材であるとでも思ったのか、虎哉禅師にそう言われてみると、輝宗も 「それも一案かな?」 思案顔になる。
「一案どころか、またとない機会でござる。頑固一徹の他家の老臣をどのようにして裁くか、これからの世の移ろいに身をおく、若の処世術の試金石にござりましょう」
なるほど、輝宗は、言葉のつぎほもなく、そうかもしれぬとその気になる。
そこで 「よいか、思案に余った時は、基信ともよくよく相談してやってみよ」というとになった。
「藤次郎一人で十分でござりまする」
と政宗が答え、胸を張り、口をグッとへの字に結んで、まだしきりに基信とやり合っている三春の老臣のいる客間へと向かった。
客間へ入った藤次郎は立ったまま「予が政宗じゃ、はるばる大義であった」と声をかけ、その場に控えている基信に向かって、「・・・基信、話は予がきく。さがってよいぞ」と手を返す。
さて、それから一刻たっても戻ってこない。一同心配しているところへ戻ってきたときには、もう燭台に灯りが入っていた。
「どうした藤次郎 !! 」父輝宗が声をかけると、
「話はつきましてございます。今宵は資福寺に泊まって、明日三春へ帰えられるようにとり計らいました」
「なに !! して嫁御の話は !? 」
「はい、11月28日に決めました」
「何 !? 11月28日にもう一度話に参ると言うのか」
藤次郎政宗はゆっくりと首を振り
「いいえ、その日が今年一番の吉日とか、その日を選んで祝言の日ときめましてございます」
その言葉に「な、なんと、おこと,それは本気か !! 」 輝宗はいきり立った。
そのやりとりに基信がとりなすように割って入った。
「若 !! そのわけを承りましょうや、このご縁談、お父上の大殿はもとより家臣一同首をかしげるにござりませぬ。たしかに三春では喜びもしましょうが、なれど、そのためにわが藩一同の不満を御一身に浴びては、若にとっては、大きな損失を浴びることになりかねませぬ」
「そのことにお気づきなされませぬか」とたたみかける。
藤次郎の隻眼がぎょろりと光った。
「基信 !! それは、そちの考えだが、わしはそうは思わぬ」
基信は、なお不満そうに輝宗の袖を引くようにして、何か言ってくれというように顔を向ける。
それにも構わず藤次郎が言い放つ。
「確かに、三春は小勢ながらもこれまで戦に負けたことはないが、そんな小藩をわざわざ敵に廻すこともあるまい。わしは、もっと大きな敵が欲しいのじゃ」
「大きな敵とは?」
さよう、わしは相馬や田村のような、いつでも落とせる小さなものを、わざわざ敵にすることもあるまいと思っている。このようなものは、争うより味方にすることじゃ」
「それに、三春の姫は、婿はわしでなければならぬと言ってきている。あれを貰いば、存分に芦名や佐竹を敵にできるからの・・・」
基信はあきれ顔で
「芦名や佐竹を敵に廻すおつもりで」
「できればのう、芦名や佐竹との縁結びでは、この藤次郎米沢の狭い領国に蟄居せざるをえまいが、心おきなく会津や常陸を敵に廻し、その戦いに勝てば、奥羽はもとより天下国家にのりだすための足ができようというもの・・・・・」 藤次郎政宗の野望は大きい。
「なるほど、苦労ならば買ってでもしようもの、その心根は勇ましい。しかし、いまだにわが足元も定まらぬではないか、そうした時期にわざわざ芦名や佐竹を敵にすることもあるまい」輝宗が口をさしはさむと
「仰せのとおり、信夫、伊達、相馬は、まだ鎮定できておりませぬが、わざわざ小さな戦いで戦力をすり減らすより、今は大きな戦いに備えて戦力を蓄えるべき時かと存じます」
「なれば、そのことのために三春と手を組むと・・・・・」
「いや、基信やお父上は、手を組むとお考えなさるが、藤次郎はそうは思えませぬ。一人娘をあずかることによって、戦わずして三春を手に入れることができる。これもまた戦略かと存じまする」
最前からことの成り行きを、じっと見守っていた虎哉禅師が、ここで口を開いた。
「これで、勝負あった。若の勝ちでござる」、さらに笑いながら「不服の方々には、人質祝言とでも言って聞かせれば問題はありますまい。われらはこの祝言に大賛成でござる」
虎哉禅師の最後の断で、伊達政宗藤次郎と三春藩「めご姫」との結婚は天正7年(1579)11月28日の吉日、執り行われることになった。
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